半世紀を超えて紡がれる
美と情熱、そして伝説

伝説は、イタリアの小さな工房から始まった

燃えるような情熱と揺るぎない技術力。このふたつが出会ったとき、新たなモーターサイクルの概念が生まれました。世界を驚かせたのは、細部にまでこだわった精緻な仕上がりです。彫刻のような美しさと、高度なエンジニアリングが共存する独自のデザイン哲学。一台ずつ丁寧に「仕立てられた」特別なモーターサイクルは、見るものすべてを魅了し、瞬く間にメディアやライダーの注目を集めました。誰もが憧れるようなコンポーネントが惜しみなく投入され、洗練されたハイパフォーマンスマシンとして、その存在を示したのです。

時は1973年の秋ーモーターサイクルを愛する者たちは、かつて見たことのないデザインと技術の結晶に出会うことになります。

先見性と創造力が、かたちを結んだ瞬間

1966年、ヴァレリオ・ビアンキ、ジュゼッペ・モッリ、そしてマッシモ・タンブリーニという3人の男たちが、イタリア・リミニに空調設備の設置を専門とする会社「bimota」を設立しました。社名は、彼らの姓 Bianchi・Morri・Tamburini の頭文字を組み合わせたもの。先見性と創造力、そして信念に裏打ちされたものづくりの象徴ともいえます。3人の創業者の中で生粋のモーターサイクリストであったマッシモ・タンブリーニは、やがて自身の愛車のカスタマイズに着手します。フレームを一から設計し直し、駆動系をシャフトドライブからチェーンドライブへと変更。その卓越した技術と、洗練されたデザインセンスを存分に発揮し、市販車を本格的なスーパースポーツマシンへと昇華させたのです。それは、bimotaにとって特別な一台が生まれた瞬間でした。このモーターサイクルにかける情熱は、日を追うごとに熱を帯びていきます。チューニングのアイディアや技術は磨かれ、止まることを知りません。

やがて、小さな工房は「洗練されたリビングのようなガレージ」へと進化。真のエンスージアストのためだけに開かれた、美意識とこだわりが漂う場所となります。「映像の魔術師」と称される映画監督フェデリコ・フェリーニの生まれ故郷であり、イタリア有数の美しい海岸線補を誇る街、リミニ。その地に、モーターサイクルへの深い愛を持つ人々のための新たな会社が産声を上げました。

それが、bimota meccanica(ビモータ・メカニカ)です。

世界へ羽ばたくbimotaの哲学

すべては、タンブリーニが描いた天才的なスケッチから始まりました。その絵が具現化したbimota市販モデル第1号の「HB1」は、わずか10台のみが製作された「イタリアン・ユニークネス」の象徴。鋼管パイプを組み合わせた革新的なトレリスフレームに、ホンダCB750の4気筒エンジンを搭載し、低重心化と徹底的な軽量化を実現したのです。

1977年には、分割式フレームを備えた革新的モデル「SB2」が登場し世間の注目を一身に集め、翌1978年には、カワサキのエンジンを搭載した伝説的なモデル「KB1」が登場し、bimotaの名を世界に轟かせました。1980年代に入ると、世界のレースシーンはイタリア・リミニの小さな工房から目が離せなくなりました。「メイド・イン・イタリー」の美しさと価値が世界的に認められる中、1980年にジョン・エクロードが、ヤマハ製エンジンを搭載した「YB3」で350ccクラスのロードレース世界選手権を制覇。さらに1987年、バージニオ・フェラーリがTT-F1世界選手権でチャンピオンを獲得します。

そして同時期には、「DB1」、「YB4 EI」、そして初代「TESI」プロトタイプと、モーターサイクル史にその名を刻むロードモデルが次々と登場します。

そして1980年代後半、bimotaの哲学を継承したのがピエルルイジ・マルコーニ。彼の創造性と熟練の技術は、数々の名車を生み出しました。アルミ製ボックスフレームを搭載したモデルとして、「YB8」「YB8E」「YB8 Furano」「YB9 Bellaria」「YB9 SR」「YB9 SRI」「YB10」「YB10 Biposto」「YB11」「SB6」「SB6 R」「SB7」「SB8R」を手掛け、トレリスフレーム構造のモデルとして、「DB2」「DB2 sr」「DB2 EF」など、多彩なラインナップを世に送り出しました。

なかでも、彼の革新性を象徴する1台が1990年発表の「TESI 1D」です。斬新な構造とフォルムを持ちながら、量産化を果たしたこのモデルは、今なお時代を超えたbimotaのアイコンとして語り継がれています。

2000年代に入ると、bimotaは11年ぶりにサーキットで戦うことを選びます。その舞台はスーパーバイク世界選手権。参戦マシンはbimotaのクラフトマンシップとレース哲学を詰め込んだ「SB8K」。そして、参戦直後にカーボン外装をまとったストリートモデルの「SB8 K」を発売し、選ばれしライダーにだけ許された、特別な走りの世界がふたたび拓かれました。

2000年代以降、幾度かのオーナー交代を経て、本格な復活の日を待ち続けたbimotaでしたが、2019年にカワサキモータースとパートナーシップを締結。伝説的な設計者であるピエルルイジ・マルコーニも復帰を果たしました。

新生bimotaはスタートと同時にカワサキ製スーパーチャージドエンジンと、bimotaの代名詞とも言えるTESIシステムを融合させた「TESI H2」を発表。カワサキの卓越したパワーユニットと、マルコーニのシャーシデザインの哲学のコラボレーションによって、bimotaの新たな伝説が幕を開けました。

翌2020年、600ccクラスのシャーシに1000ccクラスのエンジンを搭載したロードスポーツモデルの「KB4」を発表し、2023年にはbimota初となるエンデューロレーサーモデルの「BX450」を発表。同年にはイタリア・モーターラリー選手権に初参戦し、年間ランキング2位という好成績を収めました。

2024年は、次世代のハブセンターステアリング機構とバランス型スーパーチャージドエンジンを搭載した、bimota初のクロスオーバーモデル「TESI H2 TERA」と、「KB4」のコンセプトを継承しつつ幅広いライダーへ届けるため、ストリートでの性能を向上させた「KB4RC」を発表しました。

そして2025年。bimotaはbimota by Kawasaki Racing Team (BbKRT) としてスーパーバイク世界選手権への参戦を発表。実際にレースを走るライダーたちと共同で開発した「bimota KB998 Rimini」は、レースでの勝利のみを追求して造り上げられた、bimotaの最高傑作といえるモデルです。